殿中でんちゅう)” の例文
それにも返辞へんじはなく、殿中でんちゅう、ただなんとなくものさわがしいので、いまはジッとしていることもできないで、錠口じょうぐちまで足を早めながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、彼自身が見せびらかさないまでも、殿中でんちゅうの注意は、明かに、その煙管に集注されている観があった。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは殿中でんちゅうには御老中といえどもお刀をすことは出来ませぬ、只脇差ばかりでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
千代田の殿中でんちゅうである。新御番詰所しんごばんつめしょと言って、書役かきやくの控えている大広間だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
去年三月主君浅野内匠頭あさのたくみのかみ殿中でんちゅうにて高家こうけの筆頭吉良上野介きらこうずけのすけ刃傷にんじょうに及ばれ、即日芝の田村邸において御切腹、同時に鉄砲洲の邸はおげとなるまで、毛利小平太は二十石五人扶持ぶち頂戴ちょうだいして
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
妖異よういだ。夏なら知らず十二月、蛾が生きているはずがない——と思うと灯取ひとり虫、一つ一つのしょくをはたきまわって、殿中でんちゅうにわかにボーッと暗くなってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斉広なりひろがいつものように、殿中でんちゅうの一間で煙草をくゆらせていると、西王母せいおうぼを描いた金襖きんぶすまが、静にいて、黒手くろで黄八丈きはちじょうに、黒の紋附もんつきの羽織を着た坊主が一人、うやうやしく、彼の前へ這って出た。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
羅宇屋らうやの作爺さん……上に煙管きせるを立てた、抽斗ひきだしつきの箱を背負って、街へ出る。きせるの長さは、八寸にきまっていたもので、七寸を殿中でんちゅうといった。価は八もん、長煙管の羅宇らうは、十二もん以上のさだめ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「佐々木のことは、殿中でんちゅうでも沙汰をきいた。たれが何を策し、どう動こうとも。……おおそれよりは、家中かたずをのんでいよう。はやく表へ申しわたしてやれ」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お忘れ召さるな。殿中でんちゅうでござるぞ!」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)