歿ぼつ)” の例文
けれども僕の眼識は欲目のために鈍つてゐて、赤彦君は三月尽さんぐわつじんを待たずに歿ぼつし、短歌の製作も『犬の歌』以後は絶えたのであつた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
当に想念を起し、正坐し西に向ひて、日をあきらかに観じ、心を堅く住せしめ、想を専らにして移らざれ。日の歿ぼつせむとするや、形、鼓を懸けたる如きを見るべし。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その下方に大正十二年九月一日歿ぼつと刻せられてあるのが、気のせいか、私には妙に痛ましく感ぜられた。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お糸さんが家にきて間もなく、その頃父の許に稽古にきていた鶴屋の内芸者の小ふじさんが、お糸さんを見かけて、先年歿ぼつした三代目尾上菊次郎おのえきくじろうに似ていると云い出した。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
戒名かいみょうのあるべき中央の部分が空白になっていて、そのわきのところに、小さく「昭和十三年四月十三日歿ぼつ」とだけ、今のみを入れたばかりのように、クッキリと鮮かに刻んであった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
このモールス先生せんせい弟子達でしたちや、またその學者達がくしやたちが、熱心ねつしん東京附近とうきようふきん貝塚かひづか調査ちようさいたしまして、石器時代せつきじだい事柄ことがら研究けんきゆうしたのでありますが、なかでもいまから十數年前じゆうすうねんまへ歿ぼつせられました
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
遊興戒 (江戸) 西鶴置土産、五十二歳(歿ぼつ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この年九月十九日。子規歿ぼつ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
母は大正二年に歿ぼつしたのだから、大正四年は三回忌に当る都合である。父の日記にると、高野山を半日参詣してぐその午後には下山して居る。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
村では遊び仲間の大部分は歿ぼつして居たが、長生してゐたものも可なりあつた。自分の家に奉公したことのあるサヨといふ女などは九十二歳でまだ働いてゐた。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
おなじ結核性の病で歿ぼつした近ごろの文学者でも、やはり行き方に違ふところがあるやうに思ふ。
結核症 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
僕は維也納ウインナの教室を引上げ、きふを負うて二たび目差すバヴアリアの首府民顕ミユンヘンに行つた。そこで何や彼や未だ苦労の多かつたときに、故郷の山形県金瓶村かなかめむらで僕の父が歿ぼつした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)