死態しにざま)” の例文
今、目の前に、見るに堪えぬ死態しにざまをしている。衣物は、薄い単衣ひとえで、それすら、破れた肩を幾度となくいであった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
女中たちはみんなかおを見合せて、人の色はありませんでしたが、わたしは今の真鯉の死態しにざまから、そのお邸の御主人が膳部の廻りを一人で見ていたこと
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
潔いものもあり、未練なものもあり、死態しにざまはいろいろだが、名を惜しむものは、一人で森の中へ入って縊れ、あるいは石を抱いて渕川に身を投げて死んだ。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ところが、ふとした拍子ひやうしで此樣な死態しにざまをするやうになツた……そりや偶然さ。いや、屹度きつと偶然だツたらう。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「それはあんまりです、父の不審な死態しにざまも、あなたにだけお話し申そうと、きょうまで胸に秘めてきた小浪の気持……そんなふうにおっしゃるのはあんまりです」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たゞ彼女の苦難——私の損失ではない——に對する、ゐても立つてもゐられぬやうな焦立いらだゝしい思ひと、そのやうな死態しにざまの恐しさを見る、暗い無情な恐慌ばかりであつた。
妻はわざわざその死態しにざまを見に行った。それから今までの冷淡にえて急に騒ぎ出した。出入でいりの車夫を頼んで、四角な墓標を買って来て、何か書いてやって下さいと云う。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言うのは……いやとにかく、歩きながら話すとして、とりあえず十方舎へ出掛けよう……あの親爺め、可愛い娘のこんな死態しにざまを見たならきっと気狂いにでもなっちまうよ……
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「もう一度注意するが、強情を張ると利益ためにならんぞ。多分激昂して発作的に殺したんだろう。この屍体を御覧。この惨たらしい死態しにざまを見て気の毒とは思わんか。後悔もしないか」
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
岡部の悲惨な死態しにざまや、せっかく恋を得た一郎の気の毒な心に対する同情で胸がいっぱいになりながら、養子と自分が無事で、こうして並んで坐っている幸福を頭の中では強く考えていた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「イルマ将軍とも云われた者が、いかに悪行の酬いとは云え、この死態しにざまは何事じゃ! ……おお天晴れな日本の勇士! よくぞお援助下された。柬埔寨国の国王アラカンが厚くお礼を申しますぞ」
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして私、ムリオの死態しにざま
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)