此春このはる)” の例文
執達吏の読上げて居る書籍は此春このはる郷里の兄からけて呉れた亡父の遺物である。保雄は父の遺骸を鬼に喰はれて居る様な気がた。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
げんに代助が一戸を構へて以来、約一年余と云ふものは、此春このはる年賀状の交換のとき、序を以て、今の住所を知らした丈である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたくし昨年さくねんの十二ぐわつ芝愛宕下しばあたごした桜川町さくらがはちやうしまして、此春このはる初湯はつゆはいりたいとぞんじ、つい近辺きんぺん銭湯せんたうにまゐりまして「初湯はつゆにもあらひのこすやへそのあか」
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
誠太郎は此春このはるから中学校へ行きした。すると急に脊丈せたけびてる様に思はれた。もう一二年すると声がかはる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
羽織はおりのお色気いろけ取合とりあひいこと、本当ほんたう身装なりこさへ旦那だんなが一ばん上手じやうずだとみんながさうつてるんですよ、あのね此春このはる洋服やうふくらしつた事がありましたらう、黒の山高帽子やまたかばうしかぶつて御年始ごねんしかへり
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
此春このはるに成つて保雄の一家は市外から麹町区へ引移ひきうつゝて来た。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)