欝勃うつぼつ)” の例文
『浮雲』著作当時の二葉亭は覇気はき欝勃うつぼつとして、わずかに春廼舎を友とする外は眼中人なく、文学を以てしては殆んど天下無敵の概があった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その欝勃うつぼつたる客気はなにものかにふれると爆発する、しかも今や涙をもって慈父のごとく敬愛する校長とわかれんとするのである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
劇烈欝勃うつぼつの行為を描き、其主人公はおほむね薄志弱行なりし故に、メルクは彼をいましめていはく、かくの如き精気なく誠心なき汚穢をわいなる愚物は将来決ツして写すなか
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
欝勃うつぼつとした精神は体躯からだ外部そとへ満ちあふれて、額は光り、頬の肉も震へ、憤怒と苦痛とで紅く成つた時は、其の粗野な沈欝な容貌が平素いつもよりも一層もつと男性をとこらしく見える。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
軽々しくも夙少わかくして政海の知己を得つ、交りを当年の健児に結びて、欝勃うつぼつ沈憂のあまり月をろうし、花を折り、遂には書をげ筆を投じて、一二の同盟と共に世塵を避けて
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
……欝勃うつぼつたる覇気、一味の野性、休火山のような抑えられた情火、これが彼の本態であった。しかし彼は童貞であった。どうして直接うちつけに思うことを思う女へ打ち明けられよう。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いや、男の沈湎ちんめんには、妻以上の欝勃うつぼつがつつまれている。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岳武穆がくぶぼくや陸宣公にきたえられていた上に、ヘルチェンやビェリンスキーの自由思想に傾倒して意気欝勃うつぼつとしていたから
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
欝勃うつぼつたる覇気と忿懣とを胸にたくわえた麟太郎は上野の車坂を本所の方へ騎馬でいらいらと走らせていた。燈火のき初めた夕暮れ時で往来には人々が出盛っていた。人声、足音、物売りの叫び。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)