櫛箱くしばこ)” の例文
源氏が髪の乱れたのを直していると、非常に古くなった鏡台とか、支那しな出来の櫛箱くしばこき上げの箱などを女房が運んで来た。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「お仙、ちゃっと髪を結ってしまわまいかや」とお種は、炉辺へ来て待っている髪結を呼んで、古風な鏡台だの櫛箱くしばこだのを新座敷の方へ取出した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お君はついに髪を解いて、そこで自分から片はずしのまげを結ってみようとしました。櫛箱くしばこを出して鏡台に向ったお君のかおには、銀色をした細かいあぶらにじんでいました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人は何かしきりに話し合っていたが、そのうち叔母は立ち上って押入れから櫛箱くしばこを出して来た。
素人浄瑠璃しろうとじょうるりのビラなどが、辻便所ほど貼りつけてあって、そのまえに、油染みた桐の櫛箱くしばこや、びんだらいなどをすえつけて、今、一人の客の髪を結い上げているのが、親方の仁吉にきちらしかった。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅吉は、気の抜けたようなかおをして、手に櫛箱くしばこを提げながら、通りかかって来たものですから
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そういう時に成ると、おせんは何をしていかも解らないような人で、自分の櫛箱くしばこの仕末まで夫の手をわずらわして、マルを抱きながら、それを見ていたものだ。それほど子供らしかった。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
櫛箱くしばこ耳盥みみだらい、そんなようなものが眼に触れると、北原はなんだか、ここで今まで、おとわ稲川もどきの世話場が、演ぜられていたような気配も想像されないではありません。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おとなの世界をのぞいて見たばかりのようなお民は、いくらかはじらいを含みながら、十七の初島田はつしまだの祝いのおりに妻籠の知人から贈られたという櫛箱くしばこなぞをそこへ取り出して来ておまんに見せた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
知らないでいる間は格別、一度こういう物が眼に触れた以上は、事の真相を突留めずにいられなかったのである。つと箪笥の引出を開けてみた。針箱も探してみた。櫛箱くしばこかもじまで掻廻かきまわしてみた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
米友も、そういう頭が出来ているから、深くはそのことを気に病まないでいたが、し難いのは、その面を撫で廻す指先に光る剃刀と、それから、なおよく見ると、その座右に置いてある櫛箱くしばこです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すこしでも相手に成っていなければ、お房が愚図々々言出すので、三吉も弱り果てて、鏡や櫛箱くしばこの置いてある処へ連れて行って遊ばせた。お房は櫛箱から櫛を取出して「かんか、かんか」と言った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)