櫓音ろおと)” の例文
おおきな柳樹やなぎの根を廻って、裏の方へ行ってみると若いおかみさんは、そこの床几しょうぎに腰かけて、川の櫓音ろおとでも聞いているようにじっとしていた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「往復する櫓音ろおとでほぼ見当がつきますし、ほかに大きな船が泊っていないのですから、間違いはないと思います」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ゴザをしいた船のどうに横いざりにすわった足を、袴はうまくかくして、深い紺青こんじょうの海の上を、船は先生の心一つをのせて、櫓音ろおとも規則ただしく、まっすぐに進んだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その五十鈴川の水は、大湊おおみなとの口へながれ入っているが、武蔵を乗せてゆく渡舟の櫓音ろおとは、ただ無心な諧音かいおんの波を漕いで行く。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その部屋のある長屋のうしろは大川で、あけてある小さな高い明り窓から、石垣を洗う波の音や、水面をゆく船の櫓音ろおとなどが、ときをおいてのんびりと聞えてきた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おお、六軒家の藪岸へつけたな!」弦之丞は、さらに必死と漕ぎだしたが、岸が近づくに従って、思わず櫓音ろおとぬすませた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、速舟の櫓音ろおとがいよいよ烈しい。逃げて行く帆もそれに負けず、狂気のよくを風の空に鳴りはためかせる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天満川の櫓音ろおとが静かに聞えて来るのである。道頓堀の芝居櫓しばいやぐらから眠たげな太鼓もながれてくる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼をますと、いつの間にか、船は三番台場の一、二町沖に来ている。赤い提灯印ちょうちんじるしが、闇に泛いて近づいて来るのだった。はや櫓音ろおとがたちまちこっちの船のまわりを一周した。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜は明けて、川ノ辻には毎日の櫓音ろおとが、今日も変りなくいしていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、一そうの小舟の櫓音ろおと、そして、小舟の上からその漁師がなおもいう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大川を漕ぎ下る夜船の櫓音ろおとが泣くようにきしんでゆく。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古市ふるちの朝は、舟の櫓音ろおとやら車の音で明けはじめる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)