樹立こだ)” の例文
いずれも表の構えは押しつぶしたようにのきれ、間口まぐちせまいが、暖簾の向うに中庭の樹立こだちがちらついて、離れ家なぞのあるのも見える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
樹立こだちに薄暗い石段の、石よりもうずたか青苔あおごけの中に、あの蛍袋ほたるぶくろという、薄紫うすむらさき差俯向さしうつむいた桔梗ききょう科の花の早咲はやざきを見るにつけても、何となく湿しめっぽい気がして
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
門は閉まっていた、あかりもみえないほど樹立こだちがふかい。お通が裏口へまわろうというと、お杉は
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その雪持ちの森々しんしんたる樹立こだちは互いに枝を重ね合い段々たる層を形成かたちづくって底に向かってなだれている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それこそどしんバンプと押し寄せてきた暑さの波ヒイト・ウエイヴまれて、山高帽と皮手袋と円踵まるかかとの女靴と、石炭とキドニイ・パイと——つまり老ろんどんそれじしんが、影のない樹立こだちも、ほこりの白い街路も
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
こしを上げて帰ろうとしていると、いつの間にか空の一かくが曇って、雨を宿すらしい真っ黒な雲が、お庭の樹立こだちの上に古綿のように覆いかぶさっているから、おえんへ出てそれを見上げていた長庵が
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
バラバラと樹立こだちへはいった忍剣は、梅雪ばいせつとうが乗りすてたこまのなかから、逸物いちもつをよって、チャリン、チャリン、チャリン、と轡金具くつわかなぐの音をひびかせて、伊那丸のまえまで手綱たづなをとってくると
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見渡すお堀端の往来は、三宅みやけ坂にて一度尽き、さらに一帯の樹立こだちと相連なる煉瓦屋れんがおくにて東京のその局部を限れる、この小天地せきとして、星のみひややかにえ渡れり。美人は人ほしげに振り返りぬ。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)