棟瓦むねがわら)” の例文
真紅しんくへ、ほんのりとかすみをかけて、新しい火のぱっと移る、棟瓦むねがわら夕舂日ゆうづくひんださまなる瓦斯暖炉がすだんろの前へ、長椅子ながいすななめに、トもすそゆか
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そうしてここでは、私たちが失ったあの棟瓦むねがわらの曲線がいとも豊かに現れているのです。その両端の留めの形は単純であってしかも要を得、またとない美しさです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それはちょっと納屋なやみたいな建物で、その棟瓦むねがわらの線はまず牛の背中と同じくらいまっすぐである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ごとに万宝ばんぽうをちりばめてあおげば棟瓦むねがわらまでことごとく金箔きんぱく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
棟瓦むねがわらをひらりとまたいで、高く、高く、雲の白きが、かすかに動いて、瑠璃色るりいろ澄渡すみわたった空を仰ぐ時は、あの、夕立の夜を思出おもいだす……そして、美しく清らかな母の懐にある幼児おさなごの身にあこがれた。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれ聞け……寂寞ひっそりとした一条廓ひとすじくるわの、棟瓦むねがわらにも響き転げる、わだちの音も留まるばかり、なだの浪を川に寄せて、千里のはても同じ水に、筑前の沖の月影を、白銀しろがねの糸で手繰ったように、星にきらめく唄の声。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)