桃李とうり)” の例文
桃李とうり言わざれども、下おのずかけいを成す」とは確かに知者の言である。もっとも「桃李言わざれども」ではない。実は「桃李言わざれば」である。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
正月を越え、やがて桃李とうりや花が色づくと、街道の庶民は、百年でもこのままな無事がつづくように思って、欠伸あくびしていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沈黙は金という言葉あり、桃李とうり言わざれども、の言葉もあった、けれども、これらはわれらの時代を一層、貧困に落した。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
フランクの周囲には、その風格をしたい、その作品に傾倒する青年達が集まった。まさに桃李とうり物言ものいわずの感である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
沿道の谷々には桃李とうりが笑っている、村々には鯉幟こいのぼりがなびいている。霞が村も山も谷も一たいに立てこめている。
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
首ばかり極彩色ごくざいしきが出来上り、これから十二一重ひとえを着るばかりで、お月の顔を見てにこりと笑いながら、ジロリと見る顔色かおいろ遠山えんざんまゆみどりを増し、桃李とうりくちびるにおやかなる
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貂蝉は、芳紀とし十八、その天性の麗わしさは、この後園の芙蓉の花でも、桃李とうりの色香でも、彼女の美には競えなかった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれの苦しさ、わからんかね。仙脱。無慾。世が世なら、なあ。沈黙は金。塵事じんじうるさく。隅の親石おやいし。機未だ熟さず。出るくいうたれる。寝ていて転ぶうれいなし。無縫天衣。桃李とうり言わざれども。絶望。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鳥羽離宮の翠帳すいちょうふかきところ春風しゅんぷう桃李とうり花ひらく夜か、秋雨しゅうう梧桐ごとうの葉落つるの時か——ただ一個の男性としての上皇が、ほおをぬらして語り給う少年の日の思い出を——美福門院も、おん涙をともにして
水はぬるみ、春園の桃李とうり紅唇こうしんをほころばせてくる。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)