杯盤狼藉はいばんろうぜき)” の例文
逃げようとしたので、トラは強引に座敷へ引きずり込んだ、そして、膳を踏みつけたから形のごとく杯盤狼藉はいばんろうぜきを作って、共倒れに仆れた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ピアノノ前ノ畳ノ上ニ寝床ガ取ッテアッテ妻ガ静カニ寝カサレテイタ。ソノ傍ノチャブ台ガ杯盤狼藉はいばんろうぜきト取リ散ラカサレテイタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
後に残った甚五衛門は、杯盤狼藉はいばんろうぜきたる座敷の中に一人愁然しゅうぜんと坐ったまま、容易に動こうとはしなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
杯盤狼藉はいばんろうぜきと来たので、教育の方は持って生まれた根性を制し得ぬと知れと言うて帰ったと伝う。
杯盤狼藉はいばんろうぜきをきわめてさわいでいた、風体人相の好くない浪人者と覚しい七、八人の一団——部屋の隅に、四曲屏風を立てめぐらして、その中に、白衣に白の弥四郎頭巾をかぶり
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
みずから自分の身を信じて颯々さっさつと人の家に出入でいりして、其処そこにお嬢さんが居ようと、若い内君おかみさんが独り留守して居ようと、又は杯盤狼藉はいばんろうぜきの常に芸妓とか何とかう者が騒いで居ようと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
勝治の部屋は、それこそ杯盤狼藉はいばんろうぜきだった。隅に男がひとりいた。節子は立ちすくんだ。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
杯盤狼藉はいばんろうぜきと取散らしてある中に、昇が背なかにまろく切抜いた白紙しらかみを張られてウロウロとして立ている、そのそばにお勢とお鍋が腹を抱えて絶倒している、が、お政の姿はカイモク見えない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうかと云って昨夜ゆうべのような、杯盤狼藉はいばんろうぜきという場所も困るんだよ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右馬介の柳斎もまた、宴の端にいたが、そこの杯盤狼藉はいばんろうぜきのすきを窺い、宵にいちど、じぶんの下屋しもや退がって、灯もない中で阿新丸とささやいていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
杯盤狼藉はいばんろうぜき酒池肉林しゅちにくりん——というほどの馳走でもないが、沢庵たくあんの輪切りにくさやをさかなに、時ならぬ夜ざかもりがはずんで、ここ離庵の左膳の居間には、左膳、源十郎、仙之助に与吉。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
光永寺と云う真宗寺しんしゅうでらに同藩の家老が滞留中、ある日市中の芸妓げいぎか女郎か五、六人も変な女を集めて酒宴の愉快、私はその時酒を禁じて居るけれども陪席御相伴ごしょうばんおおせ付けられ、一座杯盤狼藉はいばんろうぜきの最中
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
杯盤狼藉はいばんろうぜきというこの言葉は今宵の裏座敷の有様でもあろう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
酒泉を汲みあう客たちの瑠璃杯るりはいに、薫々くんくん夜虹やこうは堂中の歓語笑声をつらぬいて、座上はようやく杯盤狼藉はいばんろうぜきとなり、楽人楽器を擁してあらわれ、騒客そうかく杯を挙げて歌舞し
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)