朝餉あさがれい)” の例文
心の水はえ立ッた。それ朝餉あさがれいかまどを跡に見て跡を追いに出る庖廚くりや炊婢みずしめ。サア鋤を手に取ッたまま尋ねに飛び出す畑のしもべ。家の中は大騒動。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
襖子からかみをあけて朝餉あさがれいに女院は出ておいでになった。絵の鑑識に必ず自信がおありになるのであろうと思って、源氏はそれさえありがたく思われた。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「……またいつ帰るか、帰る日もないか。今朝の朝餉あさがれいは都でのさいごの膳。わけていとしく美味かったの。……おそらくは、これも道誉の心入れか」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翁は煩わしく雫を払いながら朝餉あさがれいを少し食べた。持ち亙って来た行糧ももはやほとんど無くなっていた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
若水といふ事は去年こぞ御生気の方の井をてんして蓋をして人にくませず、春立つ日主水司もんどのつかさ内裏だいりに奉れば朝餉あさがれいにてこれをきこしめすなり、荒玉の春立つ日これを奉れば若水とは申すにや云々
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
飢人地上に倒れし時、主上御宸襟を悩ませられ、ちん不徳あらば朕一人を罪せよ、黎民れいみん何んのとがあるべき、しかるに天このわざわいを下すと、ことごとく嘆きおぼし召し、朝餉あさがれい供御くごを止めさせらる。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四林は、鳥の音ばかりだが、供奉の面々は袖垣をつらねて、おん輿を囲繞いにょうし、天皇は輿をで給うことなく、内でそのまま、一碗の白粥を、朝餉あさがれいとして召しあがった。——随身たちも、腹をみたした。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)