月蝕げっしょく)” の例文
恐しかった。悲しかった。子供の時に乳母うばに抱かれて、月蝕げっしょくを見た気味の悪さも、あの時の心もちに比べれば、どのくらいましだかわからない。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大正四、五年頃、私は帝展に「月蝕げっしょくの宵」を出そうとかかった時、武子さんにモデルになって貰ったことがあります。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
昼のようだった庭面にわもの月が、うすい雲のまくにつつまれて、月蝕げっしょくの晩のようなほのぐらさでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのはないた、ちょうど、そのころでありました。ある月蝕げっしょくがあったのです。
花と少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
月蝕げっしょく雨で見えず。夕方珍しい電光 Rocket lightning が西から天頂へかけての空に見えた。丁度紙テープを投げるように西から東へ延びて行くのであった。一同で見物する。
震災日記より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
月蝕げっしょくを見る
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それは——私はまた、乳母と見た月蝕げっしょくの暗さを思い出してしまう。それはこの嬉しさの底に隠れている、さまざまのもの一時いちどきに放ったようなものだった。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さちは、あおふく青年せいねん姿すがたえがきました。そして、そらあおいで、いつまた月蝕げっしょくに、そのひとと、めぐりあうことがあろう? というような、はかないおもいにしずんだのでありました。
花と少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつか「月蝕げっしょくのときに、地球の半陰影ペナンブラが見えないのはなぜか」
田丸先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それが今は、向うの蓆壁にかけられて、形ははっきりと見えませんが、入口のこもを洩れる芥火あくたびの光をうけて、美しい金の光輪ばかりが、まるで月蝕げっしょくか何かのように、ほんのりきらめいて居りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)