いつき)” の例文
旧字:
「いつか斎宮いつきのみやへおいでの折、ちょうど来あわせていたのでございました。いつききみとその母子とは、冷泉家れいぜいけの歌の同門だそうでして」
平安朝と言った昔は、歴代の内親王ないしんのう一人ひとりは伊勢のいつきみやとなられ、一人は賀茂の斎の宮となられる風習となっていたと聞くことなぞをも語り聞かせた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は近江おうみ蒲生がもう郡の郷士の子で、幼少の頃から刀法に長じ、近藤いつきという畿内では指折りの兵法家の教えを受けていたが、この夏のはじめに皆伝を許され
内蔵允留守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
院が御後援者でいらせられるからである。出立の日に源氏から別離の情に堪えがたい心を書いた手紙が来た。ほかにまたいつきの宮のお前へといって、斎布ゆふにつけたものもあった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これからしてみれば、一夜の間は心を静め澄さねばならない女神のいつきむしろにかかる動きゆらめくものが傍におることは親とはいえ娘の神の為めにならないことは判り切った話だ。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いつきの道を踏もうとするものとして行き、牙城ねじろと頼むものも破壊されたような人として帰って来た。それが半蔵の幼い子供らのそばに見いだした悄然しょうぜんとした自分だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
清らかないつきの衣は、鶴の羽づくろいしながら泉を渡るに似て爽かにもおごそかである。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
新生涯を開拓するために郷里の家を離れ、どうかしていつきの道を踏みたいと思い立って来た半蔵は、またその途上にあって、早くもこんな考えを起こすようになった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
福慈の神に出会い一目それをわが娘と知るや無我夢中になってしまって、矢庭やにわに掻き抱こうとした旅塵の掌で、危うく白妙しろたえいつきの衣をけがそうとして、娘に止められて気が付いたほどである。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)