揚巻あげまき)” の例文
旧字:揚卷
しかし、「いき」のうちには「慮外りょがいながら揚巻あげまき御座ござんす」という、曲線では表わせない峻厳しゅんげんなところがある。冷たい無関心がある。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
源内が先に立って、楽屋口から頭取座の方へ行くと、瀬川菊之丞せがわきくのじょうが、傾城けいせい揚巻あげまき扮装いでたちで、頭取の横に腰を掛けて出を待っている。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と、あせるところへ、また、うしろから退いて来た池田方の一武者が、新十郎のよろいの揚巻あげまきを目がけて槍を突きさした。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪子は風通御召ふうつうおめし単衣ひとえに、御納戸色繻珍おなんどいろしゅちんの丸帯して、髪は揚巻あげまき山梔くちなしの花一輪、革色かわいろ洋傘かさ右手めてにつき、漏れづるせきを白綾しろあやのハンカチにおさえながら
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ひげ意休いきゅう芝翫しかん)、三浦屋の揚巻あげまき(福助)、白酒売新兵衛(権十郎)、朝顔千平(猿之助)、かんぺら門兵衛(八百蔵)、三浦屋の白玉(女寅めとら)、曾我の満江(寿美蔵)などで
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
男らしく思ひ切る時あきらめてお金さへ出来ようならお力はおろか小紫こむらさきでも揚巻あげまきでも別荘こしらへて囲うたら宜うござりましよう、もうそんな考へ事はめにして機嫌よく御膳あがつて下され
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「映らふ色やくれなゐの薄花桜」と歌われた三浦屋の揚巻あげまきひげ意休いきゅうに対して「慮外ながら揚巻で御座んす。暗がりで見ても助六さんとお前、取違へてよいものか」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
丸髷まるまげ揚巻あげまきにかえしそのおりなどは、まだ「お嬢様、おやすくおともいたしましょう」と見当違いの車夫くるまやに言われて、召使いの者に奥様と呼びかけられて返事にたゆとう事はなきようになれば
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
揚巻あげまきに結いし緑の髪には、一の山桜を葉ながらにさしはさみたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)