掛稲かけいね)” の例文
旧字:掛稻
掛稲かけいね、嫁菜の、あぜに倒れて、この五尺の松にすがって立った、山代の小春を、近江屋へ連戻った事は、すぐにうなずかれよう。芸妓げいしゃである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悪い事とは知りつつも、そっと隣家の田に行って、掛稲かけいねの穂を五六本盗んで来る。または大根を畠から抜いて還る。大師はその志をあわれんで、雪を降らせてその老女の足跡を隠してやった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
掛稲かけいねに山又山の飛騨路ひだじかな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
夫人 私はね、群鷺むらさぎみねの山のに、掛稲かけいねたてにして、戻道もどりみちで、そっと立ってながめていた。そこには昼の月があって、雁金かりがねのように(その水色の袖をおさう)その袖に影が映った。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと或る日田の掛稲かけいねの陰に、この女のきて立っているのをみた人があった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
門の内掛稲かけいねありて写真
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お桂さんたちも、そぞろ歩行あるきした。掛稲かけいねに嫁菜の花、大根畑に霜の濡色も暖い。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この三角畑の裾の樹立こだちから、広野ひろのの中に、もう一条ひとすじなわてと傾斜面の広き刈田を隔てて、突当りの山裾へ畦道あぜみちがあるのが屏風のごとくつらなった、長く、せいの高い掛稲かけいねのずらりと続いたのにおおわれて
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)