抒情じょじょう)” の例文
一月号の『思ひ出』の作も極めて平淡な抒情じょじょうの内に深い味いのある歌であったが、二月号の『独都どくとより』の作はまた一層面白い歌である。
歌の潤い (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ママにはもっと書くべき世界がある。ママの抒情じょじょう的世界、何故其処そこの女主人公にママはなり切らないのですか。ひとのことどころではないでしょう。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕はクラバックの音楽はもちろん、そのまた余技の抒情じょじょう詩にも興味を持っていましたから、大きい弓なりのピアノの音に熱心に耳を傾けていました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
(1)Pierre Jean de Béranger(一七八〇—一八五七)——フランスの抒情じょじょう詩人。
叙事と抒情じょじょうとによって文学の部門を分けるのは、そういう形式的な立場からは妥当で便利な分類法であるが、ここで代表されているような特殊な立場から見れば
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
擬古の詩、もとよりただち抒情じょじょうの作とすからずといえども、これくろきて香をく仏門の人の吟ならんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
健康が恢復期の健康としてしか感じられないところに現代の根本的な抒情じょじょう的、浪漫的性格がある。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
舞踊が終ると、彼はギターを手にとり、古い大理石の煖炉にもたれかかり、わたしにはどうも、わざとつくったと思われるような姿勢で、フランスの抒情じょじょう詩人が歌った小曲をひきはじめた。
これは論戦の気づまりによる一種の抒情じょじょう的御散歩というところだろうが、つづいて私が、同じ鉱泉部落へ薬を買いに行きました。二町ぐらい進んだところで戻ってくる丹後にすれ違いましたがね。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼女の抒情じょじょう的天分を、パリーの公衆に安全に見せてやるつもりだった。
そこで二つの道にわかれる。歌はその三十一字という調子からも、また何ら季題の制約もない所から主として抒情じょじょうに適する。俳句は十七字という格調、並びに季題の制約から歌の如く抒情には適さない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それは抒情じょじょう詩人ナドソンによって
ねえパパ、こんなところへ朝っから来て、こんなこと言ったりしてることも私の抒情じょじょう的世界ってことになるんでしょうね。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「どうするものか? 批評家の阿呆あほうめ! 僕の抒情じょじょう詩はトックの抒情詩と比べものにならないと言やがるんだ。」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小田原の山は蜜柑みかん等の灌木かんぼくだけで高い樹木が全くないから陰がない。そして空が澄んでいる。牧野さんの精神の抒情じょじょうにはもやというものがほとんどないのは彼を育てたこの風景のせだろうと私は考えている。
流浪の追憶 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
だからいかに巧みにみこなしてあっても、一句一首のうちに表現されたものは、抒情じょじょうなり叙景なり、わずかに彼の作品の何行かをみたすだけの資格しかない。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其処そこに、ママの抒情じょじょう的世界を描けってところあるでしょう。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)