手炉てあぶり)” の例文
旧字:手爐
袋棚ふくろだなと障子との片隅かたすみ手炉てあぶりを囲みて、蜜柑みかんきつつかたらふ男の一個ひとりは、彼の横顔を恍惚ほれぼれはるかに見入りたりしが、つひ思堪おもひたへざらんやうにうめいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今日はまた珍客の入来じゅらいとて、朝まだきの床の中より用意に急がしく、それ庭を掃けしとねを出せ、銀穂屋ぎんぼや付きの手炉てあぶりに、一閑釣瓶いっかんつるべの煙草盆、床には御自慢の探幽たんゆうが、和歌の三夕これを見てくれの三幅対
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
如何に言釈いひとくべきか、如何に処すべきかを思煩おもひわづらへる貫一はむづかしげなる顔をやや内向けたるに、今はなかなか悪怯わるびれもせで満枝は椅子の前なる手炉てあぶりに寄りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのことばの如く暫し待てどもざれば、又巻莨まきたばこ取出とりいだしけるに、手炉てあぶりの炭はおほかみふんのやうになりて、いつか火の気の絶えたるに、檀座たんざに毛糸の敷物したる石笠いしがさのラムプのほのほを仮りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)