手水場ちょうずば)” の例文
兼太郎は台処のそばにある手水場ちょうずばへ行くよりも格子戸を明けて路地で用を足す方が便利だと思っているので寝しなにはよく外へ出る。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
手水場ちょうずば上草履うわぞうりいて庭へり、開戸ひらきを開け、折戸のもとたゝずんで様子を見ますと、本を読んでいる声が聞える。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
監獄の便所のことで、ムシニン(囚人)の言葉だが、ムシ(監獄)に縁の深い俺たちはズバチョオ(手水場ちょうずば)なんて言葉よりもっぱらこれを使っていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
便所という名が不潔だから、改めたのだとの事であります。便所と云い、手水場ちょうずばと云い、雪隠せっちんと云い、はばかりと云う名には、少しも不潔な意味はありません。
押人の中、箪笥たんすの上、脱ぎ捨てた着物、一つも平次の目をのがれるものはありません。それが済むと、縁側へ出て、便所の手水場ちょうずばの下をツクヅク眺めております。
なんでも障子の紙かなんかの破れた処から吹き込むようだねえ。あの手水場ちょうずばの高い処にある小窓の障子かも知れないわ。表の手水場のは硝子ガラス戸だけれども、裏のは紙障子だわね。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
離れの、手水場ちょうずばの、小窓から、白い顔がのぞいて、そうしたやさしい声が掛ったのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「だって、余り飲んでは毒ですよ、もう好い加減になさい、また手水場ちょうずばにでも入って寝ると、貴郎あなたは大きいから、私と、お鶴(下女)の手ぐらいではどうにもなりやしませんからさ」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
手水場ちょうずばへ入って落着いてという気分になりました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
手水場ちょうずばの縁のほうで、老公の声がする。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僧「恋慕を仕掛けた宿屋の忰が、刄物を持って来て貴方に迫り、わっという声に驚いて眼をさまして来ました、早く灯火あかりを……廊下へ出れば手水場ちょうずばに灯火がある」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わざとらしく境のふすまが明け放しになっていて、長火鉢や箪笥たんす縁起棚えんぎだななどのある八畳から手水場ちょうずば開戸ひらきどまで見通される台処で、おかみさんはたった一人後向うしろむきになって米をいでいた。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貴郎あなた、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ちょうずばですよ」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
平次は手水場ちょうずばから帰って来てさて寝ようとすると
女「少しお頼みでございますがお手水場ちょうずばを拝借致しとうございます」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と後からつづいて手水場ちょうずばへと降りて来た兼太郎にも勤めたので
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)