つつま)” の例文
旧字:
つつましく生きてゐるんだ。格別過去や未来を思ふことはしないで、一を一倍しても一が出るやうな現在の中に、慎しく生きてゐるのだ。
散歩生活 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
彼女は、愛らしくつつましく従順貞淑な妻には違いない。が、趣味や思想の上では、自分の間に手の届かないように、広い/\へだたりが横わっている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
セエラの『偉がらなかった』のは真実ほんとうでした。彼女は思いやりがあって、つつましやかな少女でした。で、持っているものは、惜気おしげもなく分けてやりました。
だが、今夜の若者は皆つつましかった。ほんのり色に出る程度に、静かな杯を交している。各〻の膳部には、勝栗かちぐり昆布こんぶのほかに、と鳥を浮かした吸物椀すいものわんが乗っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は表面つつましやかにしていても、心の底ではそれを聴いてフフンと笑ったのであろう。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
豈夫まさか! 信吾さんたら真箇ほんとに人が悪い。』と何故か富江は少しつつましくしてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つつましく語ろうと気をつけている言葉の端々に関東ローム層とか、第三紀層とかいう専門語が女学校程度の智識でない口慣れた滑らかさでうっかりれ出すのを、私の注意がとらえずにはいなかった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
前のは言い方が横柄で、後のは幾分かつつましやかであります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
信一郎の顔をじっと見詰めている夫人の高貴ノーブルおごそかに美しい面が、信一郎の心の内の静子のつつましい可愛かわいい面影を打ち消した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
つつましいささやきに促されて、やがて畏る畏る前へ出て来ると、内蔵助がこう云いわたした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瑠璃子の処女のごとつつましく娼婦しょうふの如く大胆な媚態びたいに、心を奪われてしまった勝平は、自分の答がう云うことを約束しているかも考えずに答えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すると、玖満子夫人は、つつましやかなうちにも、信念をもって
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)