心悸しんき)” の例文
あるひは心悸しんきの度はづれな昂進だのによつて、れいの強制的な接続作用にひびが入ると、人はそこで味気ない夜半の寝ざめを味はふことになる。
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
あに明治の思想界を形容すべき絶好の辞にあらずや。優々閑々たる幕府時代の文学史を修めて明治の文学史に入る者いづくんぞ目眩し心悸しんきせざるを得んや。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
彼処かしこに房のついた長剣がある。あれは国家主義者の正義であらう。わたしはさう云ふ武器を見ながら、幾多の戦ひを想像し、をのづから心悸しんきの高まることがある。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、どきんと心悸しんきがたかまり、目先がぼーっとなってはッきり確かめることは出来なかった。その同じ位置につづけて一秒と眼をすえておくことさえ出来ないのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そして氣になる位心悸しんき亢進かうしんして、腕のあたりにあせがジメ/\することもあツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
牢の入口なるかんぬきの取りはずさるるひびきいとどあやしうすさまじさは、さすがに覚悟せる妾をして身の毛の逆竪よだつまでに怖れしめ、生来せいらい心臓の力弱き妾はたちま心悸しんき昂進こうしんを支え得ず、鼓動乱れて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「時務のお疲れでしょう。何かひどく、心悸しんきを労されたことはありませんか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心悸しんきの亢進を覺えるほど滿ち溢れた感激を持つてゐた矢先だつたので。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
わたくしは心配性の逸作に向って、わたくしが父の死を見て心悸しんき亢進こうしんさせ、実家の跡取りの弟の医学士から瀉血しゃけつされたことも、それから通夜の三日間静臥せいがしていたことも、逸作には話さなかった。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
瑠璃子はまた父が、興奮の余り心悸しんき昂進こうしんして、物も云えなくなっているのではないかと思うと、急に不安になって来て、争いの舞台シーンたる兄の書斎の方へ、足音を忍ばせながらそっと近づいて行った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わたしはそう云う武器を見ながら、幾多の戦いを想像し、おのずから心悸しんきの高まることがある、しかしまだ幸か不幸か、わたし自身その武器の一つをりたいと思った記憶はない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)