徒爾いたずら)” の例文
と云って、のままに立去たちさるほどの断念あきらめは付かぬ。断念の付かぬのも無理はない。重太郎は宝に心をひかされて、徒爾いたずらに幾日かを煩悶のうちに送った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兄さんは自分の身躯や心が自分を裏切うらぎ曲者くせもののように云います。それが徒爾いたずら半分の出放題でほうだいでない事は、今日きょうまでいっしょに寝泊ねとまりの日数ひかずを重ねた私にはよく理解できます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は徒爾いたずらな時間をつぶすために、与一の絵葉書や手紙を、何度となく読んでまぎらした。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
これなども山𤢖の女性であったに相違ないが、徒爾いたずらに腐らしてしまったのはおしい事であった。同じく西遊記に山𤢖の事も記してあったと記憶している。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山育ちの彼は、これを形容すべき適当のことばを知らなかった。重太郎は徒爾いたずらに眼をみはり、手を拡げて、とうとき宝であるべきことをしきりに説明ようと試みた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
く水は再びかえらず、魯陽ろようほこは落日を招きかえしぬと聞きたれど、何人も死者を泉下より呼起よびおこすべきすべを知らぬかぎりは、われも徒爾いたずらに帰らぬ人を慕うの女々めめしく愚痴なるを知る
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)