後口あとくち)” の例文
それに、まぐろの脂肪がすこぶる濃厚のうこうでありながら、少しも後口あとくちに残らぬという特徴があって、まさに東京名物として錦上きんじょうはなを添えている。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「裏が明いたから直ぐに知らせようと思ったが、後口あとくちきまっていると聞いて落胆がっかりしていたら、君だったのかい?」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「どうも後口あとくちが悪うて悪うてまあだムカムカします。一ツ景気のえいところで一ツコキつけて、つかあさい」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うっかり後口あとくちを廻ろうとして外へ出ると、待ち伏せしていた出先のお神に厭応いやおうなし持って行かれるというふうだったが、それでもたまにはひまを食うよいの口もあり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ゆうべ、宵のうちに野田家さんでお目にかかったのよ。三、四人おつれがあったわ。わたしは後口あとくちで廻って行ったもんだから、ちょっとお目にかかったばっかりなのよ。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なんで、あんな馬鹿なことをいうたとか知らん? あんまり、巡査が威張りくさるもんじゃけ、つい、いつもの癖が出てしもうたが、……どうも、後口あとくちが悪いなあ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「二十七にもなって、女が、しゅうないなどと云っても、わしは、うなずかん。持て、持て、八十三郎も後口あとくちにひかえているに、貴様が、いつまで、部屋住へやずみでは困る」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「十手捕縄じゃ——そんな事を言っちゃ悪いが、後口あとくちのよくねえことがあります。彦兵衛が一世一代、身体を張ってきっとかたをつけます。こいつはあっしに任しておくんなさいまし」
善光はそれには答えないで、蝦蟇がまのような大きなおとがいを動かしながら、じっと後口あとくちを味っていたが、まだ何だか腑に落ちなさそうなところがあるらしく、ちょっと小首をかしげた。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
ういうものか、家の子供は春夏秋と丈夫だが、冬は兎角弱い。十二月から一月へかけて皆達者で好い塩梅だと思っていると、誰か風邪をひく。それが直るか直らないに後口あとくちが出来る。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
後口あとくちだって構わないけれど、こゝは元来吉川君の勢力範囲だからね」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)