広闊こうかつ)” の例文
その葉はユリの諸種とは違い、広闊こうかつなる心臓形で網状脈もうじょうみゃくを有し、花は一茎に数花横向きに開き、緑白色りょくはくしょくで左右相称状になっている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
平野に進出した者はこれを広闊こうかつなる水面にまで適用し、止まって山地の生活を持続した者もまたややこれを奥の入りに持ち運んだためであろう。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
冬の間、俊寛は畑を作ることに、一生懸命になった。彼は、まず畑のために選定した彼の広闊こうかつな土地へ、火を放った。そして、雑草や灌木かんぼくを焼き払った。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
アウグスチヌスの言ったように、神の国の敷居をまたげば内は広闊こうかつだけれども、入口の鴨居かもいが低いから、高慢心のある人は頭がつかえて、入れないのである。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
なくとも崛強くっきょうなる奥州の地武士が何を仕出さぬとも限らぬところである、また然様いう心配が無くとも広闊こうかつな出羽奥州に信任すべき一雄将をも置かずして
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大湯温泉で容易に雇い入るる事が出来て、山の頂上は苗場山なえばさん式に広闊こうかつであるということが分明になった、そうして大平氏は初めは平ヶ岳に趣味を持たなかったが
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
しかして書中に現れた悪魔の態度の実に凛々りりしく、彼の野心の実に偉大なる、彼の度量の広闊こうかつなる、読む者をして知らず知らず神よりも悪魔を尊敬する念を起こさしむる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もし新しき文学が、コンミニズム文学と新感覚派文学の二つであるとするならば、そのいずれが、果して文学の圏内に於て、より新しくして広闊こうかつなる文学となるべきであろうか。
さきほどの広闊こうかつとした海でなく、湾であり入江である。その入江を抱く左手の山から、からすの声が聞えて来る。それも一羽ではなく、数十数百羽の鴉が、空に飛びいながら鳴いていた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
その広闊こうかつな場面を、幾何学的造りの庭が池の単純な円や、花壇の複雑な雲型や弧形で、精力的に区劃くかくされていた。それは偶然規則的な図案になって大河底を流れ下る氷の渦紋のようにも見えた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だらだら坂を登り切ると、丘の頂上は喬木きょうぼく疎林そりんとなり、その間を縫うみちを通るとき、暑い午後の日射ひざしは私の額にそそぎ、汗が絶え間なくしたたった。林をぬけると、やや広闊こうかつな草原があった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)