幾晩いくばん)” の例文
御米およねはさも心地好こゝちよささうにねむつてゐた。ついこのあひだまでは、自分じぶんはうられて、御米およね幾晩いくばん睡眠すゐみん不足ふそくなやまされたのであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたしは幾晩いくばんも隊商の後について行きました。そして、発育の悪いシュロの木にかこまれた泉のほとりで、この人たちが休むのを見ました。
「そりゃあ、ここに泊るぶんには、幾晩いくばんでもいいさ、お前の都合さえつけば。……じゃあ行ってくるかな。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あの新治にひばり近邊きんぺん筑波つくばをとほりぎて、今夜こんや幾晩いくばんたとおもふ、といはれたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そんな事をささやいたきりだった。春作は、幾晩いくばんも幾晩も、永代河岸を歩いてみた。だが、河の中へ入ってゆく気になれなかった。水が怖いのではなく、世間の眼と世間の灯が、いつも背後うしろで気になった。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アンネ・リスベットは、幾晩いくばんも、幾晩も、家から、姿をけすようになりました。そういうときには、きまって、海べにいるところを、人に見つけられました。
それからは、幾晩いくばんも幾朝も、お姫さまは、王子と別れた海べに浮びあがっていきました。いつのまにか、庭の木の実が熟してもぎとられていくのを見ました。
幾晩いくばんも幾晩も、開かれた窓ぎわに立って、さかなたちがひれやしっぽを動かしながらおよいでいる、まっさおな水をすかして、上のほうをじっとながめていました。
空気はまたみわたりました。幾晩いくばんか、たっていました。月は上弦じょうげんになっていました。わたしはふたたびスケッチをしようという考えを起しました。——月の話してくれたことをお聞きください。