年経としへ)” の例文
旧字:年經
だから、いいかえれば、こよいの燈下の三人は、同じふるさとで、ひとつ元木のこぼれ芽が、年経としへてここに会したものといってもよい。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それほど由緒ゆかりのない建築もまたはそれほど年経としへぬ樹木とても何とはなく奥床おくゆかしくまた悲しく打仰うちあおがれるのである。
見ればさいはひ、芦の中からなかば沼へさし出てゐる、年経としへた柳が一株ある。あすこから沼へ飛びこみさへすれば、造作ざうさなく水の底にある世界へかれるのに違ひない。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
年経としへてめぐりう隣人のなつかしさというものは、学問の上でもなお無限の感激を与えずにはいない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鋸鑢に驚く金物かなもの細工をするにやすりは第一の道具で、れも手製に作って、その製作には随分苦心して居た所が、そののち年経としへて私が江戸に来てず大に驚いたことがある
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「邪神は年経としへたるおろちなり、かれがさがみだらなる物にて、牛とつるみてはりんを生み、馬とあいては竜馬りゅうめを生むといえり、このまどわせつるも、はた、そこの秀麗かおよきたわけたると見えたり」と云っていましめた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
年経としへても忘れておられないということは、髪をおろした身にも、やはりうれしいにちがいなかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)