帰途かへりみち)” の例文
旧字:歸途
此頃は何をしてゐるかといふと役所で局長様の鼻毛を数へ奉つた帰途かへりみちは俺の邸へ来て夫人おくさまから嬢様の御機嫌伺ひだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
少年は帰途かへりみちになると、まだせずに置いたラテンの宿題の事を思ひ出した。そして随分疲れてもゐるし、厭でもあるが、それを片付けてしまはうと決心した。
駆落 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
ある時日光へ往つての帰途かへりみちに、夫人は誰かに買つて帰るつもりで、土産物を売つてゐる一軒の小店こみせへ入つた。村井氏は葉巻をくはへたまゝあとからのつそりいて往つた。
それに、丑松を贔顧ひいきにして、伊勢詣いせまうでに出掛けた帰途かへりみちなぞには、必ず何か買つて来て呉れるといふ風であつた。斯ういふ隣同志の家の子供が、互ひに遊友達と成つたは不思議でも何でも無い。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
僕が「帰途かへりみちはセエヌの岸へ出て蒸気でのぼらうと思ひます」と云つたら
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
延寿太夫は初代が文政八年中村座よりの帰途かへりみちに、乗物町和国橋で人に殺された岡本吉五郎、二代が吉五郎の子巳三次郎みさじらう、後に所謂名人太兵衛、三代が安政四年に地震に遭つて死んだ町田繁次郎
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
女は帰途かへりみち一言ひとことも物を言はなかつた。
梅田着の上り列車で同志会総理加藤高明男が南海遊説の帰途かへりみちに大阪へ立寄るといふので、まだ薄暗い朝靄あさもやのなかから、一等待合室へ顔を出した待受まちうけの三人衆、一人は北浜花外楼きたはまくわぐわいろう女将おかみ
聞いて見ると、蓮太郎は赤倉の温泉へ身体を養ひに行つて、今其帰途かへりみちであるとのこと。其時同伴つれの人々をも丑松に紹介した。右側に居る、何となく人格の奥床おくゆかしい女は、先輩の細君であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)