たむ)” の例文
千住せんじゅ宿しゅくにはおそらく官軍がたむろしているであろう。その警戒の眼をくぐり抜けるには、暗くなるのを待たなければならない。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一旦退いた討手の勢はそれと見るより引っ返して再び門に迫ったが左右そうなく討ち入る事もせず同じ場所にたむろして空声からごえばかりを上げるのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あたりは、彼の部隊がたむろしているところとは、ちがう。まず、氷山のうえに、ひらひらとひるがえる日章旗が、リント少将をその場に、すくませてしまった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金銀財宝などは塵芥ちりあくたも同然だ、やがて、収穫とりいれの季節も終り、水車小屋が他人手ひとでに渡つたあかつきには、ヤグラ岳の山窩へなりとたむろして、ロビンフツドの夢を実現させようではないか
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
どちらかというと俳句の弟子と和歌の弟子とはそれぞれ別々にたむろして居った。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
乗合馬車、俗に円太郎は一層難物、浅草千里軒の営業、雷門前にたむろして、いまのトラックへ幌をかけたような体裁、一頭立てや二頭立てで痩せ馬をビシビシ、浅草新橋間をやみ雲に走らす。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
その尖端が愛鷹あしたか山の方向へと流れて行く、振り返れば、箱根火山彙かざんいには、雲が低く垂れて、乙女峠から金時山の腰へかけて、大河の逆流するばかり、山と山との間は、幾つにも朝雲がたむろして
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そこで今度は岸に添うて湖水の周囲を調べようと土人軍達がたむろしているその岸を指して船を漕いだ。土人達はほとんど間断なく空砲を空に向けて撃っている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遠征隊を組織して今からちょうど一月ほど前からひそかにここにたむろして様子をうかがっているのであった。
幔幕を張り焚火たきびをし、抜き身の槍を幾本か立てた、一団が静まってたむろしていたが、槍の先に三個の生首を貫き、それを示威的に川のくろに立て、幾人かの浪人らしい武士たちが
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腹巻き一つ着けたもの、小手こて脛当すねあてだけ付けた者、そうかと思うと半裸体の乞食非人さながらの者、それがいずれも意気軒昂けんこうと、血まみれの槍や刀をたずさたむろしているのでございます
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一陣、二陣、三の陣と、次第次第に人数を増し、最後の四陣は旗本でもあろうか、整斉としてたむろした様子はまことに堂々たる兵法と云うべく、到底山賊野武士などの陣備えとは思われない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
往来の前後に黒々と、数百の人数がたむろしていた。隅田川には人を乗せた、無数の小舟が浮かんでいた。露路という露路、小路という小路、ビッシリ人で一杯であった。捕り方の人数に相違なかった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)