居睡ゐねむり)” の例文
楯彦氏はそこらの明いてゐた椅子に腰を下して美しい花嫁の笑顔など幻に描いてゐるうち、四辺あたり温気うんきでついうと/\と居睡ゐねむりを始めた。
良寛は馬鹿者のやうに見えてゐて、なかなか心がひろい。少しもこせつかないで、運命のままに身をまかせてゐる。いつどんなところででも、居睡ゐねむり
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
十時頃になると、車中の人は大抵こくり/\と居睡ゐねむりを始めた。忠太は思ふ樣腹を前に出して、グッと背後うしろもたれながら、口を開けて、時々鼾いびきをかいてゐる。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
先刻さつきから大分酩酊して、居睡ゐねむりをしさうになつて居た汚ならしいぢいさんが、いきなり横あひから聲をかけた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
と言つて、こくり/\居睡ゐねむりでもしてゐたか判らない。さう言つたからとて、何も腹を立てるには及ばない。人生はそんなものなのだから。
唖のお政は私より二歳ふたつ年長としうへ、三番目一人を除いては皆女で、末ツ児はまだを飲んでゐた。乳飲児を抱へて、大きい乳房を二つともはだけて、叔母が居睡ゐねむりしてる態を、私はよく見たものである。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
果してこくりこくり居睡ゐねむりを始めたのをよび覺まして
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
居心地のいゝ会社の椅子に暫くモーニングのせなもたらせて、こくり/\おきまりの居睡ゐねむりをすると、増田氏は大きな欠伸あくびをしい/\のつそりと立ち上る。
居睡ゐねむりを初める隣の女。
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何事も思ひ思ひの世の中、その冒険小説を読みさしてこくり/\居睡ゐねむりをしてゐたところで、少しも悪くはない。
敏捷すばしこい広業は画絹が取出されたのを見ると、いつの間にかかはやに滑り込んで、そのまゝそこで居睡ゐねむりをしてゐたのだ。
利藻氏と豆千代とは、画がよく解るやうに、時々感心したやうにうなづいたり、小首をかしげたりしてゐたが、なかで三毛猫は一番正直だつた。画が始まると、せなを円くしてぢき居睡ゐねむりをし出した。