尾濃びのう)” の例文
その問題の洲股すのまたというのは、尾濃びのうの国境で、美濃の攻略には、どうしてもこの辺の要害に、織田の足溜あしだまりが欲しいところなのである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名古屋、岐阜をはじめ尾濃びのういたるところ、当春来一時流行せしものは、その称を狐狗狸こっくりまた御傾おかたぶきと名づくるものなり。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
三年まえの尾濃びのう震災におびやかされている東京市内の人々は、一時ぎょうさんにおどろき騒いだが、一日二日と過ぎるうちにそれもおのずと鎮まった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家康は、同盟国の織田が、自分に背後を守らせて、中原ちゅうげんへ出ている間を、ただ甘んじて、尾濃びのうの裏門の番犬に安んじてはいなかった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とある通り、初夏とはいえ、尾濃びのう大暴おおあれのあとで、気象一変し、急激に暑くなって、炎日くような日であったと思われる。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とすれば、この大戦の決戦場となる地域は、どうしても、伊勢、美濃、三河を外廓として、木曾川を中心とする尾濃びのうの山野たることはいうまでもない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾張二郡の小城から、尾濃びのう二州へ羽翼うよくをのばしたくらいでは、まだ世間は、多分に多寡たかをくくっていたであろう。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
置き捨てられた日吉は、ちょっとぽつねんとして、尾濃びのうの平野に暮れてゆく雲を見ていたが、やがて土塀口からはいりこんで、加藤家の台所の外にたたずんでいた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾濃びのう平野を過ぎたれの余波もしずまり、星は静かに、琵琶びわ余吾よごの二湖は大小の鏡を投げたように見える。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾濃びのうの兵に、徳川家康の三河武士八千を加えて、およそ十万と称する軍勢が、鳰鳥におどりなぎさに遊ぶうららかな晩春四月の湖畔数里にわたって、雲霞うんかのごとく集まった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あすは尾濃びのう平原に馬を立て、徳川どのという大敵にまみゆるに、つねの殿ともおもわれぬ」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美濃みのを経略し、居城も清洲きよすから小牧山こまきやまへ、それからまた岐阜城ぎふじょうへと移って、尾濃びのう百二十万石を治めるようになると、秀吉もそれまでの功によって、近江長浜おうみながはまの城主二十万石という大身になっていた。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)