小蕪こかぶ)” の例文
私の大好きな小蕪こかぶの実の味噌汁みそしるは、せんのうち自家でお前がこしらえたほど味は良くなかったけれど久しぶりに女気がそこらに立ち迷うていて
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
久しぶりに自分で作った弁当、いり玉子にハムのきざんだの、配給のアミの佃煮つくだにを煮なおし、とろろこんぶと小蕪こかぶ漬物つけもの、紅しょうがもそえた。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その中へ先ず兎の肉を入れて別にバターで焦げるほどフライした玉葱を五つ六つと皮を剥いてフライした小蕪こかぶを五つ六つ加えて一時間余も弱火とろびで煮ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
銘酒山盛りの菰冠こもかぶりが一本据ゑてあつて、赤ちやんをねんねこに負ぶつた夫人が、栓をぬいた筒口から酒をぢかに受けた燗徳利を鐵瓶につけ、小蕪こかぶの漬物、燒海苔などさかなに酒になつた。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
一軒の小さな八百屋やおやがあって、あかる瓦斯ガスの燃えた下に、大根、人参にんじんねぎ小蕪こかぶ慈姑くわい牛蒡ごぼうがしら小松菜こまつな独活うど蓮根れんこん、里芋、林檎りんご、蜜柑の類がうずたかく店に積み上げてある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すももでも色づかぬうちは、実際いちごと聞けば、小蕪こかぶのように干乾ひからびた青い葉を束ねて売る、黄色な実だ、と思っている、こうした雪国では、蒼空あおぞらの下に、白い日で暖く蒸す茱萸の実の、枝も撓々たわわな処など
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)