小半町こはんちょう)” の例文
その沼のほとりから小半町こはんちょうほど離れた原の真中に、十七八の美しい娘が頭の天辺から割りつけられ、血に染まって俯伏せに倒れていた。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それから小半町こはんちょうもあるいて、電車の停留所にたどり着いたが、どうしたものか電車が一向いっこうに来ない。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
と、東側の小門こもんから小半町こはんちょうほど距たった辺に、こんもりした林がありました。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
道の小半町こはんちょう、嬉しそうに、おかしそうに、ながめ視め、片頬笑みをしながらいて歩行あるいたのは、糊のきいた白地の浴衣ゆかたに、絞りの兵児へこ帯無雑作にぐるりと捲いた、耳許みみもとの青澄んで見えるまで
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
満身まんしん太刀傷たちきずにさいなまれたふたりの従僧、斬ッつ、いつ、小半町こはんちょうほど鎖駕籠を追いかけたが、刀おれ力もつきて、とうとう馬場ばばのはずれの若草の上で、たがいにのどと喉とをしちがえたまま
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盛んに羽虫はむしが飛びかわして往来の邪魔になるのをかすかに意識しながら、家を出てから小半町こはんちょう裏坂をおりて行ったが、ふと自分のからだがよごれていて、この三四日湯にはいらない事を思い出すと
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かれは疑問の西瓜をかかえて、湯島の方へ急いで行きかけたが、小半町こはんちょうほどで又立ちどまった。これをこのまま先方へとどけて好いか悪いかと、かれは不図ふとかんがえ付いたのである。
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「厭という事も無いんだが……。」と、市郎は返事に困って、思わず父の方をみかえると、安行は小半町こはんちょうばかり先の木蔭こかげに立って、此方こっちじっと見詰めているので、市郎は何とも無しに赤面した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
妹に別れて栄之丞は南の方へ小半町こはんちょうも歩き出したが、彼の足はにぶり勝ちであった。まったくお光の言う通り、いくら立派そうな口を利いても今の栄之丞に十両の才覚はとても出来なかった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)