)” の例文
旧字:
すると、講演の順番が彼にめぐって来た。彼はステージに出て、渦巻く聴衆の顔ときあっていたが、緑色の幻は眼の前にチラついた。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
勿論、顔もおりおりは湯舟の中でお洗いになってき合っても、そんなことは一つも気にしないふうだったと、山本さんは言った。
自己の前に置かれたるあらゆる生活の与件にかって、まっすぐに、公けに、熱誠に働きかけ、あこがれ、疑い、悩み、またよろこび、さまざまの体験を経て
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それで私はこの人の歌を読んでいる時には、作者とき合ってその声を聞いている時と全く同じ心持になる。
宇都野さんの歌 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一日四杯と、二升とこっそりき合っているこの朝の景色は、至極のどかだ。格子から見える山の上に一本高く楢の木が見えていて、そこへ群落して来たひわが澄んだ空に点点と留っている。
私とは、何時間という間をきあっていても、互いに言葉をかけあわないのはもちろんであったが、私の妻が話しかけることがあると彼は徹頭徹尾「いいえ」と「はい」とだけで押し通すのであった。
秋草の顆 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
リーダーを持ったまま、彼は硝子窓ガラスまどの方へ注意をけていた。ひょろひょろの銀杏いちょうこずえに黄金色の葉がヒラヒラしているのだ。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
かれらは、そのいのちにきあい、それを奪いあうために生き、その日をあてに生きているのかも分らなかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
落着のないクラスの生徒たちは、この風が吹きまくるとき、ことに騒々しかった。彼はときどき教壇の方から眼を運動場のはてにある遠い緑のかたまりにけていた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
植木屋のいうとおりになって育ってきたものどもですよ、民さんのそんな言葉にきあっている松は、なるほど、どれも、人に似ていた、人も人、はりつけになっているようなもの
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そう云いながら、彼はくるりと黒板の方へいて、今度は図示にって、実際的の説明に入った。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)