寝棺ねがん)” の例文
とにかく彼はえたいの知れないまぼろしの中を彷徨ほうこうしたのちやっと正気しょうきを恢復した時には××胡同ことうの社宅にえた寝棺ねがんの中に横たわっていた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宗像博士は、遠くからそのガラス箱を見つけると、真直まっすぐにその方へ近づいて行った。そして、三人はその寝棺ねがんのようなガラス箱の前に立った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
禾場うちばには村の人達が寄って、板をけず寝棺ねがんこさえて居る。以前もとは耶蘇教信者と嫌われて、次郎さんのお祖父じいさんの葬式の時なぞは誰も来て手伝てつどうてくれる者もなかったそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
生きたものに葬式と云う言葉は穏当でないが、この白い布で包んだ寝台ねだいとも寝棺ねがんとも片のつかないものの上に横になった人は、生きながらとむらわれるとしか余には受け取れなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふたをあけた樽に、砂馬と一緒に俺は近づいた。寝棺ねがんの死体みたいに、樽の中に丸裸の男が入れてある。がっくりと前に伏せた顔を、立てた両膝の間に無理やり押しこむようにして樽に詰めてある。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
その小部屋には、やっぱり手品の道具であろうか、寝棺ねがんの様な黒い箱が置いてある。中には何が這入っているのか、文代すら少しも知らぬのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのうち読経どきょうの切れ目へ来ると、校長の佐佐木中将はおもむろに少佐の寝棺ねがんの前へ進んだ。白い綸子りんずおおわれたかんはちょうど須弥壇しゅみだんを正面にして本堂の入り口に安置してある。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
丁度寝棺ねがんほどの大きさの、長方形の白木の箱だ。近づいて見ると、その蓋の表面に、墨黒々と何か書いてある。読むまいとしても読まぬ訳には行かなかった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは西洋の装飾寝棺ねがんに似ていた。そと側の黒い色がうるしのように光っていた。
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)