寝所ねどこ)” の例文
旧字:寢所
随分日用品や仏具なども沢山ある。そこには炊事場も寝所ねどこも皆調えてある。その前にお婆さんから貰って来たヤクの乾皮を水に浸した。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
からだはせわしいおかげでますます健固けんご、また、諸侯しょこう寄進きしんのおちからで、どうやらわしの寝所ねどこもこのとおりできかかっている」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お柳は夜中に、寝所ねどこから飛び出して、田舎の寂しい町を、帯しろ裸の素足のままで、すたすた交番へ駈け着けたりなどした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夫婦の寝所ねどこになっている奥の間へ通して、ともかくも寝かして置くと、男は日の暮れる頃まで起きることが出来ない。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白翁堂勇齋は萩原新三郎の寝所ねどこくり、実にぞっと足の方から総毛立つほど怖く思ったのも道理、萩原新三郎は虚空をつかみ、歯を喰いしばり、面色土気色に変り
そのうちに彼は眠くなった。そうして益々空腹になった。何より現在いまの彼に執っては、やわらか寝所ねどこと温かい食物——何さ、冷でも結構であるが——この二つが必要であった。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おれはそれを見た、そう言って多門は屋敷の中へ這入ったが、しばらくして寝所ねどこ縁先えんさきでちらりと影を見た。そこの雨戸が一枚られてあって、暗い闇が口を開けていました。
ゆめの話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
涙を以て寝所ねどこに就き、祈らぬ人となるに至れり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
なんでこんなおおきなしろ寝所ねどこなもんか、これはやがて、四こくしゅうはおろか、東海道とうかいどう浜松はままつ小田原おだわらも、一呑ひとのみに併呑へいどんしようとする支度したくじゃないか
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
台所から雑巾ぞうきんを持って来て、お君はお絹の足を綺麗に拭いてやって、六畳の寝所ねどこの方へいたわりながら連れ込んだ。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浅井はうとうとと寝所ねどこのなかに、とりとめのない物思いに耽っていたが、展開せずに、幕のおりてしまったような舞台の光景がもの足りなくも思えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
反対の側は寺院てら通りに面し、いうところのうなぎ寝所ねどこのような、南北に長い空地であって、北のはずれには一ツ目橋があって、渡れば相生町や尾上河岸へ出られ、南のはずれを少し行けば
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お庄はぷりぷりして出て行く芳太郎を送り出すと、そっと戸締りをして、また寝所ねどこかえった。そして楽々と手足を伸ばして甘い眠りに沈むのであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
飯がすむと、お庄は二階へあがって叔父の寝所ねどこを片着けにかかった。冬の薄日が部屋中にわたっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それで二人一緒に家へかえると、妻君が敷いてくれた寝所ねどこへ入って、酔いのさめた寂しい頭を枕につけた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
床ずれの痛い寝所ねどこにも飽いて、しばらく安楽椅子にかかっている先生のおもてはすっかり変っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お鳥は寝所ねどこへ入ってからも、自分の知っているそういう家の風をいろいろ話して聞かした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)