定石じょうせき)” の例文
「何かにつけて、この調子だから、定石じょうせきで行くと手が狂う。およそ、何がはかり難いというて、うつけ者の出来心ほど怖いものはない」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火事息子という言葉もあるくらいで何か騒ぎのあるとき駆けつけるのが、勘当された息子のわびを入れる定石じょうせきになっている時代のことです。
たとい何の当てが無くとも、ともかくもその方角へむかって探索を進めてゆくのが、その時代の探索の定石じょうせきであると、半七老人は説明した。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甲谷はようやく銭石山が支那人の誇りを感じる定石じょうせきへ落ち込んだのを知ると、よしッと思って、静にメスを取り上げた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
なんしろ相手がよくない船乗りのことで、定石じょうせきどおり、子供ははらむ、情夫おとこには捨てられたということになって、半年ほど前に、すごすご帰って来たんです
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
理窟をいえば衣を擣つ者が妻であり、帰って来る者が夫であることも、句には現れておらぬようであるが、そこはそう解するのがきぬたの句の定石じょうせきであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
碁の定石じょうせきは極めて不定多岐多端だが、将棋の定跡はある点まで絶対のものらしい。然し終盤に及んでからも、四五手間髪を入れず応酬し合つた時があつた。
散る日本 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
定石じょうせきを心得ておいでなさるところが感心、とかく初心のうちは、そう打っておいでになるがよろしい、其許そこもとはなかなか筋がようござるな、見込みのあるお手筋てすじじゃ
ヘレニスト時代に西アジアやエジプトで行なわれたさまざまの救主神の密儀においては救い主は皆十字架につけられたのである。それが死んでよみがえる神の定石じょうせきであった。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それが芸者に熱中し、やがて各方面不義理だらけにして落籍ひかせて一緒になると共に勤め先はクビという、そうしたことの定石じょうせきを踏んで、二人で東京へ出て来たのだった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
飛車落ち定石じょうせきの説明のようであったが、私の聞いたのはその終わりの五、六分間である。
名人上手に聴く (新字新仮名) / 野呂栄太郎(著)
白昼の化物ばけものの方が定石じょうせきの幽霊よりも或る場合には恐ろしい。諷語であるからだ。廃寺に一夜いちやをあかした時、庭前の一本杉の下でカッポレをおどるものがあったらこのカッポレは非常に物凄ものすごかろう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とにかく、ぼくらの家庭は、道具の売り喰いという定石じょうせきどおりな所まで来ていたのである。それが二た月に一度か三月目ぐらいの深夜の物音となるのだった。
置碁の定石じょうせきの御手本通りのやりかたで、地どり専門、横槍よこやりを通すような打方はまったくやらぬ。こっちの方がムリヤリいじめに行くのが気の毒なほど公式的そのものの碁を打つ。
定石じょうせきを打つと二三目は弱くなるそうだが、弱くなるのが本当だ。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なるほど。しからば謙遜けんそんして、定石じょうせきにここいらから行こう」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次の問はいよいよ定石じょうせきはずれです。
森公はまたすこぶる達者で病気一つしたためしはなく、十年一日の如く、その生活定石じょうせきも崩したことがないという。
前々回の「大江山待ち」の項で、範頼のりより、義経たちの源氏方は、すでに生田いくたと鵯越えの直前まで迫っている。——で定石じょうせきだと、次回はすぐ鵯越え、一の谷の合戦描写になるわけである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)