安座あぐら)” の例文
障子しょうじに近い大きな白熊の毛皮の上の盛上るような座蒲団ざぶとんの上に、はったんの褞袍どてらを着こんだ場主が、大火鉢おおひばちに手をかざして安座あぐらをかいていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
本町辺は薬種やくしゅ問屋の多いところなので、あたしは安座あぐらをかいて、薬草くすりぐさを刻んでいるのを見て知っていたからよくわかった。
萩野は何時ものように、火の気のない炉のそばに、どっかりと安座あぐらをかいていた。その側には、裸体はだかになった坑夫が三四人、ごろごろと寝転んでいた。
恨なき殺人 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
デクデクふとった男が三枚も蒲団ふとんを重ねて木魚然もくぎょぜん安座あぐらをかいて納まり返っていたと笑っていた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そこでこのお二方の神が出雲の國のイザサの小濱おはまに降りついて、長い劒を拔いて波の上に逆樣にし立てて、その劒のきつさきに安座あぐらをかいて大國主の命にお尋ねになるには
此処ここだぞ此処で行儀を直さなければならぬ、姿勢を直すのは此処だぞ、疲労つかれた時には安座あぐらをかいて飯を食いたい、寝て物を食たいが此処だぞ、飯を食う時に急かず落付いて食べる。
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのくせ鼻は丸く安座あぐらをかいていて小さい目は好人物というより、滑稽味こっけいみのある剥身むきみに似た、これもけんそんな眼だ。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
佐藤の妻は安座あぐらをかいて長い火箸ひばしを右手に握っていた。広岡の妻も背に赤ん坊を背負って、早口にいい募っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
父が時たまとりだして、安座あぐらをかいて、奏管ろかん(琴爪)で琴につけた譜面の星を、ウロウロ探しあてて弾いていた。大かた九世団十郎時代の、お弟子の一員ででもあったのであろう。
倶知安くっちゃんからK村に通う国道はマッカリヌプリの山裾やますそ椴松帯とどまつたいの間を縫っていた。彼れは馬力の上に安座あぐらをかいて瓶から口うつしにビールをあおりながら濁歌だみうたをこだまにひびかせて行った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)