孰方どつち)” の例文
「あんたは、雨風やなア、孰方どつちもいけるんやさかいえらい。……わたへは其の甘いもんは、見ただけで胸がむかつきますわい。」
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
海老を正木美術学校長の似顔にいたかうかは知らない、海老と正木氏と——強い者の前では、孰方どつちもよく腰を屈めるすべを知つてゐる。
されば筑摩家とは父子二代の縁故、一向宗とは曾祖父より四代の縁故があるので、ひて孰方どつちかへ味方をせよと云はれゝば、むしろ檜垣へ附かねばならない。
おもふばかりで、何故なぜ次第しだい民也たみやにも説明せつめい出來できぬとふ。——にしろ、のがれられないあひだえた。孰方どつち乳母うばで、乳※妹ちきやうだいそれともあによめ弟嫁おとよめか、敵同士かたきどうしか、いづれ二重ふたへ幻影げんえいである。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
先生がお忙しいのは、先生自身に取つても、お客に取つても勿怪もつけ幸福さいはひであつた。孰方どつちも損をしないで済む事なのだから。
孰方どつちでもよい。自分はもう/\そんなことを考へたくはない。自分はたゞ織女星たなばたさまのやうに、一年に一度づゝ、牽牛星ひこぼしのやうな小池に逢つてゐればよい。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
鯨のせなを利用する事の出来る賭博打ばくちうちは飛行機のシートも利用する事を知つてゐる筈だ。孰方どつちも危険がまとつてゐるだけに、興味は一段と深からう。
大抵の場合、作家と批評家とが向き合ふと、うはつらは互に感心したやうな事を言つて、腹のなかでは孰方どつちからも馬鹿にし合つてゐるものなのだ。二人は持合せのお世辞を取り交した。