威嚇ゐかく)” の例文
或は又「生」の享楽家たる彼にとつて、そこに象徴された「死」の事実が、この上もなく呪ふ可き自然の威嚇ゐかくだつたのであらうか。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
丁度吟味與力笹野新三郎を忌避きひして、無實の罪を訴へでもするやうに、生首と死體とが實に頑固ぐわんこ威嚇ゐかくをくり返しました。
いま社會しやくわいは一回轉くわいてんした。各個人かくこじん極端きよくたん生命せいめいおもんじ財産ざいさんたつとぶ、都市としは十ぶん發達はつたつして、魁偉くわいゐなる建築けんちく公衆こうしゆ威嚇ゐかくする。科學くわがくつき進歩しんぽする。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
上田等の同志のものである。短銃は駕籠舁かごかきや家来を威嚇ゐかくするために、中井がわざと空に向つて放つたのである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
汽笛は勤勉ならざる者には堪へがたい威嚇ゐかくであつた。一日でも骨折を惜んで血税を怠る者をたちま憂欝いううつにした。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
それは何か威嚇ゐかくするやうにも見え、哀願するやうにも見えた。その手紙を、彼は読まずとも知つてゐる。彼にはつまらぬ事であつて、彼の女達には重大な何事かであらう。
森林が人間を威嚇ゐかくした、その復讎ふくしうの旋律が、いまかへつて来るとともに、私の生活を、原始の自然につな紐帯ちうたいも、ズタズタに引きちぎられたのだ、人情の結氷点が近づいたのだ
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
萬屋治郎兵衞は、凄い顏して睨んでゐる一つ木の馬吉の威嚇ゐかくにも屈せず、その顏を正面から指さすのです。
明日の暑さで威嚇ゐかくする夕焼ではなく、明日の快晴を約束する夕映ゆふばえであつた。
其上親子が放さずに持つてゐる脇差も、それとなく威嚇ゐかくの功を奏してゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
取次の小者は、肩肘かたひぢ張つて入口を塞ぎ乍ら、精一杯の威嚇ゐかく的な聲を出します。