天禀てんぴん)” の例文
恩師の食道楽に感化された乎、天禀てんぴんの食癖であった乎、二葉亭は食通ではなかったが食物くいもの穿議せんぎがかなりやかましかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
天禀てんぴんならむは教へずとも大なる詩人となりぬべし。野にふる花卉くわきうるはしさ、青山の自然の風姿、白水のおのづからなる情韻、豈人間の所爲ならむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
虫介同様一汎に平凡の者ばかりとなるから、人々ことごとく『楼炭経』にいわゆる自分天禀てんぴんの福力ない以上は、天変地異その他疾病を始め一切自然に打ち勝ちて
もしこの諸能力中の一個のみを発育する時は、たとえその発育されたる能力だけは天禀てんぴんの本量一尺に達するも、他の能力はおのずから活気を失うて枯死こしせざるをえず。
文明教育論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
天禀てんぴんの智恵と身の軽さを利用して、江戸から近郷へかけて、有名な仏像仏具を盗んで、片っ端から削っては焚きましたが、十中八九は檜や白檀、精々浅香などですが
「小次郎は、孫四郎の剣を、地味なれど一日の長があるという。孫四郎は、小次郎の刀法を、所詮しょせん自分などの及ばぬ天禀てんぴんの名手という。いずれが然るか、いちど手合せしてみい」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身分いやしく、格別美しくも無い一婦人の為に、次男ながらも旗本五百石の家に産まれた天下の直参筋、剣道には稀有けうの腕前、是天禀てんぴんなりとの評判を講武所こうぶしょ中に轟かした磯貝竜次郎が
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
かく名高くなったのは天禀てんぴんにもよるであろうが、また熱心と熟練にもよること少なくない。初めにデビーの講演を聴いたときから、かかる点がうまいというような事まで観察しておった。
天禀てんぴん余ありて脩養足らざれば也。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
初代の喜兵衛も晩年には度々江戸に上って、淡島屋の帳場に座って天禀てんぴんの世辞愛嬌を振播ふりまいて商売を助けたそうだ。
また諺に紀州人のつれ小便などもいわば天禀てんぴん人にも獣畜類似の癖あるのが本当か。
「ここまで登ってくる途中でも、犠牲にえになった幾人もの斬口てぐちをみたが、汝、あたら天禀てんぴんの才腕をもって、時勢の反抗児となり、幕府の走狗そうくになって、無為に終るのはつまらんではないか」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、平時に民部みんぶの教えるところであった。民部は伊那丸を勇士ゆうし猛夫もうふ部類ぶるいには育てたくなかった。うつわの大きな、とくのゆたかな、品位ひんい天禀てんぴんのまろく融合ゆうごうした名将めいしょうにみがきあげたいとねんじている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)