大提灯おおぢょうちん)” の例文
旧字:大提燈
たちまち向うに見える雷門の新橋しんばしと書いた大提灯おおぢょうちんの下から、大勢の人がわいわいいって駈出かけだして来るのみか女の泣声までを聞付けた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これまではいったことのない鉄ちり屋だの関東煮かんとうだきなどの赤い大提灯おおぢょうちんのぶら下がった家などへもはいり、そこでは金を出してちゃんと支払いをした。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高い欄間らんまに額が並び、大提灯おおぢょうちんの細長いのや丸いのや、それが幾つも下った下を通って裏の階段の方へ廻りましたら、「これから江崎へ行くのだ」とおっしゃいます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
せめて御賓頭顱おびんずるでもでて行こうかと思ったが、どこにあるか忘れてしまったので、本堂へあがって、魚河岸うおがし大提灯おおぢょうちん頼政よりまさぬえ退治たいじている額だけ見てすぐ雷門かみなりもんを出た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
道頓堀からの通路と千日前からの通路の角に当っているところに古びた阿多福人形おたふくにんぎょうが据えられ、その前に「めおとぜんざい」と書いた赤い大提灯おおぢょうちんがぶら下っているのを見ると
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
浅草の仁王門におうもん大提灯おおぢょうちんみたいな、ベラ棒に巨大な、真赤にすき通った、鯨の心臓である。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこでも土産物やたべものの店がならんでいた。のきの低い家並やなみに、大提灯おおぢょうちんが一つずつぶらさがっていて、どれにもみな、うどん、すし、さけ、さかななどと、太い字でかいてあった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
妙に心もあらたまって、しばらく何事も忘れて、御堂みどうの階段を……あの大提灯おおぢょうちんの下を小さく上って、おごそかなひさしを……欄干に添って、廻廊を左へ、角の擬宝珠ぎぼしゅで留まって、何やらほっと一息ついて
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
灯のつき始めた浅草の大提灯おおぢょうちんの下で、私の思った事は、この二円十銭で朗かな最後をつくしましょう。と云うことだ……何だか春めかしい宵なり、線香と女の匂いが薫じて来ます。雑沓ざっとうの流れ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
神近き大提灯おおぢょうちん初詣はつもうで
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
格子の前の長さ一丈余もある賽銭箱さいせんばこへ、絶間たえまもなくばらばら落ちるお賽銭は雨の降るようです。赤い大提灯おおぢょうちんの差渡し六、七尺、丈は一丈余もあるのが下っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)