夜眼よめ)” の例文
夜眼よめにもほの白い雪の街路を転がり廻っているこの紅蓮の焔の周囲を遠巻きにして、黒い人影は右往左往にただ混乱し切っていた。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それはたゞ四つの道が出會であつた辻に立つてゐる石の柱に過ぎなかつた。その柱は、遠方からまた夜眼よめに、もつとはつきりさせる爲めだらう、白く塗られてあつた。
夜眼よめにも匂うような若い女の熱い顔は、実際、しきりに香気を夜気のなかにほとばらしているのだ。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
松の針のさきに一つ一つ水玉がついているのが、戸の洩れ灯をうけて夜眼よめにもいちじるしい。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
十八度位のがぶりで硝子窓ボウルトに浪の飛沫しぶき夜眼よめにも白く砕けて見えた。低い機関の廻転が子守唄のように彼の耳に通った。為吉の坂本新太郎は暫らくしてすやすやといびきを掻き始めた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
やがて、さんざ番犬共に咆えつかれた揚句、夜眼よめにも瀟洒しょうしゃな文化住宅と、外燈の描くぼんやりした輪の中に「木島」の表札を発見した時は、もうその無意味な仕事の為に、心身ともに
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
芹沢の屍骸しがいの上には、夜眼よめにも白くお梅のからだが共に冷たくなって折り重なっている。
月に向かって夢見るような大輪の白い木蘭もくらんの花は小山田邸の塀越しに咲き下を通る人へ匂いをおくり、夜眼よめにも黄色い連翹れんぎょうの花や雪のように白い梨の花は諸角もろずみ邸の築地ついじの周囲をもやのようにぼかしている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蒸しむしと夜眼よめち来る土ほこりトラックとどろき兵ちはじむ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)