壱岐殿坂いきどのざか)” の例文
旧字:壹岐殿坂
眼に血をそそぎ、すさまじい形相ぎょうそう壱岐殿坂いきどのざかのほうを見こむと、草履ぞうりをぬいで跣足はだしになり、髪ふりみだして阿修羅あしゅらのように走りだした。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と少しことばが和らいで来たので、主税はほっ呼吸いきいて、はじめて持扱った三世相を懐中ふところへ始末をすると、壱岐殿坂いきどのざか下口おりぐちで、急な不意打。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現今いまの言葉で言えば、非常に推理力の発達した男で、当時人心を寒からしめた、壱岐殿坂いきどのざかの三人殺しや、浅草仲店の片腕事件などを綺麗に洗って名を売り出したばかりか
三十年前にはよくTMと一緒に本郷、神田、下谷したや連立つれだって歩いた。壱岐殿坂いきどのざか教会で海老名弾正えびなだんじょうの説教を聞いた。いけはたのミルクホールで物質とエネルギーと神とを論じた。
病院風景 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昨日きのうは酒屋の御用が来て、こちらさまのにく似た犬の首玉に児供が縄を縛り付けて引摺ひきずって行くのを壱岐殿坂いきどのざかで見掛けたといったから、直ぐ飛んでって其処そこら中をいて見たが
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
和尚が茶をれたり菓子を出したり、また精進料理で旨くはないが、有合ありあいで馳走に成りまして、是から極楽水を出まして、れから壱岐殿坂いきどのざかの下へ出て参り、水道橋を渡って小川町へ来て
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
壱岐殿坂いきどのざかだッたかしら、ちっとこっちへ来る坂下の処で、荷車に一度。ついこの先で牛車に一度、打附ぶッつかりそうにしたの。虫が知らせたんだわね、愛吉、お前のおかげ
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辻俥つじぐるま蹴込けこみへ、ドンと積んで、山塞さんさいの中坂を乗下ろし、三崎ちょうの原を切って、水道橋から壱岐殿坂いきどのざかへ、ありゃありゃと、俥夫くるまやと矢声を合わせ、切通きりどおしあたりになると、社中随一のハイカラで
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)