さむらひ)” の例文
近所のものが誰の住まひになるのだと云つて聞けば、松平の家中のさむらひで、宮重久右衞門と云ふ人が隱居所を拵へるのだと云ふことである。
ぢいさんばあさん (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
以て願ひますと差出するに駕籠脇かごわきさむらひ請取駕籠の中に差出さしいだせば酒井侯中よりの女の樣子を倩々つく/″\見らるゝに如何にも痩衰やせおとろうれひに沈みし有樣なれば駕籠を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さむらひの児が猫に祟られて病死でもしたら、いゝ恥晒はぢさらしだ。いつそ切腹して果てたがよからう。」
閑散なこの国のさむらひたちは、昔しさういふことに深い興味をもつてゐたし、網や附属品などを作るのに極めて堪能であつた。囮の選択や飼養法にも特殊の目と優れた技能をもつてゐた。
籠の小鳥 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ソレッといふので下野国へと押出した。馬を駈けさせては馬場所うまばしよさむらひだ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
跡部あとべ大筒方おほづゝかたの首を斬らせて、鑓先やりさきつらぬかせ、市中しちゆうを持ち歩かせた。後にこの戦死した唯一のさむらひが、途中から大塩の同勢どうぜいに加はつた浪人梅田だと云ふことが知れた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それと同じ頃に、江戸に大久保八右衛門といふさむらひが住んでゐた。
寄手は定番ぢやうばんを殘して引き取つた。次いで城内の使が來て、見知人をよこすから、兩夫人を見せてくれと云つた。利安は一應、さむらひの女房の面吟味おもてぎんみはさせられぬ、とことわつた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)