壁虎やもり)” の例文
お勢の、壁虎やもりの背のような怨み深げな顔……、成戸の、打算にけた白々とした眼も……苦々しく、打衝ぶつかり合うが、言葉は出ない。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
というのは、蛇ばかりでなく、人形の腹には壁虎やもりが一匹やっぱり釘づけになって生きている。よっぽど執念ぶかい奴の仕業しわざに相違ありませんね
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひま漏る風に手燭の火の揺れる時怪物のようなわが影は蚰蜒げじげじう畳の上から壁虎やもりのへばり付いた壁の上にうごめいている。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
壁虎やもりが鳴く、夜鳥が啼く。私にも何となく甘苦い哀愁がき出されて、ふとそれがいつか知らぬ間に海の上を渡っている若い店員にふらふらと寄って行きそうなのに気がつくと
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ふと見るとその電燈の笠の内側に黒い斑点はんてんが見えた。それは壁虎やもりであった。壁虎はを見つけたのか首を出したがその首が五寸ぐらいも延びて見えた。彼はおやと思って足を止めた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それよりも感心なは居暁の博物ものしりで、壁虎やもりの眼がまたたかぬなど少々の例外あれど、今日の科学精覈せいかくなるを以てしても、一汎いっぱんに蛇の眼は瞬かず、蜥蜴群の眼が動くとは、動かし得ざる定論じゃ。
蜥蜴とかげ壁虎やもりひき、犬、猫、狐、狸、いたち、鼠、貂のたぐいで、合図をすれば必ずどこからか現われて来るから、それをすべて生けるがままにほうって
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
壁虎やもりがきちきち鳴く、気味の悪い夜鳥のき声、——夕食後私はヴェランダの欄干らんかんもたれた。私のいる位置のいびつに切り拓かれた円味のある土地を椰子の林が黒く取巻いている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたくしも正面から平気でのぞく訳にはまいりません、壁虎やもりのように扉のかげに小さく隠れて、そっと隙見を致しているのですから、暗い土蔵の中はよく見えません。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天井から壁虎やもりでも落ちてまゐりましたか。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)