うず)” の例文
自分の微力を以てしては精衛海をうずむる世間の物笑いを免かれんかも知れんが、及ばずながらもこれが自分の抱懐の一つである
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかるところ玉稿拝読致候いたしそうろう御句おんくの多き割合に佳句の少きは小生の遺憾とする所にして『日本』の俳句欄も投句のみを以てうず兼候かねそうろう場合も不少すくなからず候。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その茶話ちやばなしのあひだに、わたしは彼の昔語を色々聽いた。一冊の手帳は殆ど彼の探偵物語でうずめられてしまつた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
五寸の円の内部に獰悪どうあくなる夜叉の顔を辛うじて残して、額際から顔の左右を残なくうずめて自然じねんに円の輪廓りんかくを形ちづくっているのはこの毛髪の蛇、蛇の毛髪である。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或る分析し難い不愉快と、忘れていたのを急に思い出したような寂しさとが、頭を一ぱいにうずめている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
半刻ほど話して去ったが、その僅かな時間が二年間の友情の空白をうずめた、女のことには一言も触れなかった、はたし合いのことなどはまるで無かったような感じだった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まあ、生きていると云事いうことは、どんなに美しい事だろう。それに自分の生活の内容は、全くこの男の事でうずめられているのである。無くするかと思ったこの人を取り返した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そう云う折に、彼の頭を一杯にうずめて居るものは、唯識論の「外面似菩薩」の一句であった。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
およそ一週間ばかり毎日のように社説欄内をうずめて、又藤田、箕浦が筆を加えて東京の同業者を煽動せんどうするように書立かきたてゝ、世間の形勢如何いかんと見て居た所が、不思議なるかなおよそ二、三ヶ月もつと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
(天使等回旋しつゝ、この場所を全くうずむ。)
附録は文学欄でうずめていて、記者は四五人のほかでない。書くことは、第一流と云われる二三人の作の批評だけであって、その他の事には殆ど全く容喙ようかいしないことになっている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)