城塞じょうさい)” の例文
葫芦谷ころこくの西方十里ばかりの地点にいて、目下、谷の城塞じょうさいの内へ数年間を支えるに足る大量な食糧を運び込ませているわけであるという。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで私は、彼のうしろについて、そこに見える城塞じょうさい小門こもんをくぐった。白木は、私の方をふりむいた。そしてステッキを叩いていうには
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
心持の好い朝で、何を眺めても眼が覚めるようであった。次第に巴里の近郊から城塞じょうさいの方へ近づいて行った。車窓に映る建築物の趣なぞも何となく変って来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かろうじて築き上げた永遠の城塞じょうさいが、はかなくも瞬時の蜃気楼しんきろうのように見る見るくずれて行くのを感じて、倉地の胸に抱かれながらほとんど一夜を眠らずに通してしまった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
家族制度の排他思想を最も露骨に示すものは、貴族や富豪の家屋が塀を高くし門を堅くして、他に向って小さな城塞じょうさいにひとしい威圧を示さなければ満足しないのでも見ることが出来ます。
激動の中を行く (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「我々にとって、工場は城塞じょうさいでなくて、これア戦場だ!」
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
夜はめっしておく習慣しゅうかん城塞じょうさいは、まッくらで、隠森いんしんとして、ただひとりさけびまわる彼女かのじょの声が木魂こだまするばかりだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな大芝居でもうたなければ、まるで中世紀の城塞じょうさいのような辻川博士邸内に忍び入ることはまず不可能だと思われた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
巴里を囲繞とりま城塞じょうさいの方に近いだけ、いくらか場末の感じもするが、それだけまた気が置けない。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
平城というのは、天嶮てんけんによらず平地へいちにきずいた城塞じょうさいのことで、要害ようがいといっては、高さ一じょうばかりの芝土手しばどてと、清冽せいれつな水をあさく流したほりがあるだけだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うむ、それはその何だ、むにゃむにゃ。あああれか。あれが博士のひきいてきた驚異きょうい軍艦ホノルル号か。うむ、すばらしい。全く浮かべるくろがねの城塞じょうさいじゃ」
一方では二十人ほど、手をわけて咲耶子さくやこのゆくえをさがし、また一方でははなかけ卜斎ぼくさいが、こしに手をあてて城塞じょうさいのつくりを、しきりに見てまわっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白木は、ステッキの先をあげ、はるかの山顛さんてんにどっしりと腰をおちつけているゼルシー城塞じょうさいゆびさした。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ゼルシー島か。ゼルシー島といえば、メントール侯の城塞じょうさいのある島だ」
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「人工と天嶮で固めた葫芦ころ盆地へ移陣し、食糧にも困らなくなった後は、もう再び彼を撃とうとしても到底、不可能でしょう。祁山を以て、前衛陣地とし、葫芦を以て、鉄壁の城塞じょうさいとなした上は……」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に、城塞じょうさいの工は、大概の場合が、敵前の突貫とっかん工事である。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのものはすでに厖大ぼうだい城塞じょうさいである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)