地方いなか)” の例文
何人なんぴとに断って、おれの妻と手紙の遣取やりとりをする。一応主人たるべきものに挨拶をしろ! 遣兼ねやしない……地方いなかうるさいからな。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一と口にいうと、地方いなかからポッと山出やまだし書生の下宿ずまい同様であって、原稿紙からインキの色までを気にする文人らしい趣味や気分を少しも持たなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
地方いなかへ行かない工夫はないの?」と忘れたように、肩にもたれて、胸へすがったお妙の手を、上へ頂くがごとくに取って、主税は思わず、唇を指環ゆびわけた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……一日違いで徒士町から分れたというもんじゃ。地方いなかで結うたなり、船や汽車で、長いこと、ようでつけもせなんだれど、これでも島田髷やったが、にい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六本指、手の小指が左に二つあると、見て来たようなうわさをしました。なぜか、——地方いなかは分けて結婚期が早いのに——二十六七まで縁に着かないでいたからです。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の祖父じじい——地方いなかの狂言師が食うにこまって、手内職にすいた出来上がりのこの網を、使つかいで持って行ったのを思い出して——もう国に帰ろうか——また涙が出る。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
台所と、この上框あがりがまちとを隔ての板戸いたどに、地方いなか習慣ならいで、あしすだれの掛ったのが、破れる、れる、その上、手の届かぬ何年かのすすがたまって、相馬内裏そうまだいり古御所ふるごしょめく。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「その方と別れたから、それでかなしくなって地方いなかへ行ってしまうのじゃないの、ええ、じゃなくって?」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それよりは当分地方いなかへ引込んで、人の噂も七十五日と云うのを、果敢はかないながら、頼みにします方が、万全の策だ、と思いますから、私は、一日旅行してさえ、新橋
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地方いなかと言っても、さまで辺鄙へんぴな処ではないから、望めばある、寝台の真上の天井には、瓦斯がすが窓越の森に映って、薄らあおくぱっといていたっけが、寝しなに寝台の上へひょいと突立つッたって、ねじって
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)