“回(たび)” の例文
彼は親友の前に自(みづから)の影を晦(くらま)し、その消息をさへ知らせざりしかど、陰ながら荒尾が動静の概略(あらまし)を伺ふことを怠らざりき、こ回(たび)その参事官たる事も
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかれども富貴を得て、天が下の事一回(たび)は此の人に一四五依(よ)ざす。一四六任ずるものを辱(はづかし)めて命(いのち)を殞(おと)すにて見れば、文武を兼ねしといふにもあらず。
さるにこの継母といふは、お袖が家へ来るまでに、既に三回(たび)も他へ嫁(かしづ)きて、いづれも不縁になりしといへば、ほんの出来合いの間に合はせものにてとうてい永持ちのせむやうはなし。
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
やや有りて彼は徐(しづか)に立ち上りけるが、こ回(たび)は更に邇(ちか)きを眺めんとて双眼鏡を取り直してけり。彼方此方(あなたこなた)に差向くる筒の当所(あてど)も無かりければ、偶(たまた)ま唐楪葉(からゆづりは)のいと近きが鏡面(レンズ)に入(い)り来(き)て一面に蔓(はびこ)りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)