あざわら)” の例文
彼の頭には、藤木と千鶴子とが、自分のすぐ前で、淫らな姿態をして、彼をあざわらっている様子がまざまざと描かれることがあった。
二人の盲人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そこに発表されて在る作品だって、みんな卑俗だ。私だって、もとより卑俗の作家である。他の卑俗をあざわらうことは私には許されていない。人おのおの懸命の生きかたが在る。
困惑の弁 (新字新仮名) / 太宰治(著)
辺幅へんぷくを飾らず、器量争わず、人をあざわらわず、率直に「私」を語る心こそ詩人のものだと思います。僕の好きな一人の詩人の名を云ってみましょうか。ハンス・クリスティアン・アンデルセン。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
中央に怪神の抱き合うた形のあり、炉には汗のように油脂が滲み出て居る。あざわらうような青き焔が炉の口から時々現れる。屋根裏より燻製の猿、わにの子などが古血のように固まって垂れて居る。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
遣瀬やるせなげに、眉をせめて俯目ふしめになったと思うと、まだその上に——気障きざじゃありませんか、駈出かけだしの女形がハイカラ娘のるように——と洋傘かさを持った風采なりを自らあざわらった、その手巾ハンケチを顔に当てて
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが一生をあやまたしめたと言うと、犬脱走して河に入りて再び現われなんだとも、魔が、汝、死んでも必ず蘇らせてやると誓うたので自殺すると、魔、あざわらって取り合わなんだので死に切れたともいう。
痩馬やせうまに乗せられ刑場へ曳かれて行く死刑囚が、それでも自分のおちぶれを見せまいと、いかにも気楽そうに馬上で低吟する小唄の謂いであって、ばかばかしい負け惜しみをあざわらう言葉のようであるが
「人は人をあざわらうべきでない」云々。